デッド・オア・牛糞

ジョイント・アレルギー

異物

 

ザワザワ…ザワザワ…

 

スネ郎「先週家族でトルコへ旅行に行ってきてさ〜」

 

モブ 「スゲー!!!」「やっぱ金持ちはちげーよなー」「それでそれで???」

 

スネ郎「夜にパパと本場のトルコ風呂に行ったんだけどやっぱり本場は違うんだよね、フェラの質とかさ」

 

貧乏くさい小学生のクソガキ共に大きな声でトルコ風呂の自慢を披露している小柄の少年はスネ郎、家系が代々既得権益で潤ってきたらしく生まれながらにしての勝ち組である

我々のような労働ロボットの卵、悪循環と憎しみの忌み子とは住む世界が違うのだ、心なしかスネ郎は石鹸の良い匂いがする

 

スネ郎「おいドビ太!お前ちゃんと聞いてんのか???こっちはお前みたいなかわいそうなルンペンに上流階級の世界を教えてやってんのによ、しっかり聞いとけよな、お前のようなゴミ、吹けばとぶぞ?」

 

いまスネ郎から名指しで罵倒されたのがこの僕、ドビ太だ

勉強も出来ず、運動もダメ、顔も良くないの三重苦で弱者代表のような僕は何かにつけてスネ郎の標的になる

体格差からして、おそらく殴り掛かれば簡単に勝てるのだがそれをすれば我が家に将来は無くなる

頭が良くない僕でもそれぐらいは理解できる、現代においてのヒエラルキーとは出生時にあらかた決まるのだ

 

「ごめんね、ちゃんと聞いてるよ」

僕はなるべく申し訳なさそうに言った

 

スネ郎「フン!分かればいいんだよ、この屑」

 

ヂャイ=アン「オイ、ハヤク ツヅキ キカセロ」

 

このカタコトの黒人はヂャイ=アン、在日外国人で母国はアフリカ系の途上国らしい

どういった経緯で日本に来たのかは定かではないが僕らの界隈でスネ郎に意見できるのはヂャイだけだ、彼の異様な雰囲気と風貌が僕らアジアの猿に「勝てない」と本能で理解させる

ヂャイは顔に何処かの部族のような白いペインティングを施して謎の動物の骨を帽子のように被って街を歩くし、法律とモラルを理解していないので普通に人を殴るのだ

 

チズ子「スネ郎さん、それで本場のトルコ風呂の値段はどれくらいだったの?」

 

今スネ郎に問いかけたのはチズ子、僕らのマドンナだ

恐らくこの場にいる全員が毎晩チズ子の事を考えて虚空に情念を飛ばしているだろう、そしてそれはスネ郎も例外ではない

本場のトルコ風呂よりもチズ子を思いのまま犯してやりたいというのが本音だろう、それ程の魅力がチズ子にはある

何故こんな美少女が21世紀の現代にチズ子などという古臭いカビの生えた名前をしているかというのが疑問ではあるが、聞く話によると父親が熱狂的な愛国保守の活動家で、古き良き昭和の日本に夢を見ているからだというが真偽の程は定かではない

 

スネ郎「そりゃもうボクは最高級の所に行ったからね!キミらじゃ到底支払えない金額さ!特にドビ太のような底辺にはね!ハハハ!こりゃ傑作だぜ!」

 

「ハハ…勘弁してよ…」

またご指名がかかってしまった

確かに僕の家はスネ郎と比べたらとても裕福とは言えないが父親は会社勤めで真面目に勤務しているし食うには困っていない

我が国のGPAも上げてはいないが下げてもいないはず、平均的一般家庭である

去年も家族で熱海に旅行に行ったし

悔しい…クソ………うぅ…憎い…何も出来ない自分が憎い…僕は無力だ…力が無ければ何も出来ない…力が…力が欲しい…

 

──────「力が欲しいか」

 

突如ドビ太の脳内に謎の声が響いた

 

─────────「力が欲しいか」

 

「欲しい……」

 

「力が欲しい!!!」

 

ほぼ反射的に(或いは打算的でもあったかもしれないが)ドビ太は叫んだ

 

──────「力が欲しいのならば」

 

 

────────「くれてやる」

 

シーン…。

何も起こらない

スネ郎達は数秒驚いたような顔をしていたが直ぐにいつもの憎たらしいニヤァとした表情に戻った

スネ郎「なんだよコイツ、気でも触れたのか?ヂャイ、コイツ力が欲しいらしいぜ、渾身の力をお見舞いしてやりなよ」

 

ヂャイ「オマエ チカラ ホシイ オレ オマエ ナグル リガイ イッチ ウィン ウィン」

そう言うとヂャイは僕にマウントポジションを取ると僕の顔を力の限り殴り出した、およそ人間の出せるパワーではない

正月に杵で突かれる餅になった気分だ

余談ではあるがヂャイは5分間の無呼吸運動が可能だ

この地獄は5分間続いた

「うぅ……」

 

ヂャイ「これが力だ、ドビ太。"暴力"この世で最も尊い力だ。」

 

スネ郎「ハハハ!傑作だよマッタク!!みんな!これが人間社会の縮図さ!強者が弱者を蹂躙する!弱肉強食なんだよこの世はサァ!!!」

 

僕は逃げるようにその場を去った

帰り道、何度もまだ自分の顔が存在しているか不安になり民家の窓ガラスで確認をしたが青タンだらけの惨めな顔を見るたびに傷が痛んだ

 

家に着いた僕はなるべく音を立てないように自室に戻った、自室のドアを開けると目に飛び込んだのはいつもの風景に明らかに馴染まない"異物"であった

 

「こんにちは、ドビ太くん」

 

"異物"は僕の喫驚を全く意に介さず微笑んだ

 

~続~