デッド・オア・牛糞

地下アイドルの情報

 

konoyo-no-sinri.hatenablog.com

 前回の続きです

 

 

 

────「こんにちは、ドビ太くん」

 

そう語りかけてくる異物に僕は困惑を隠しきれなかった

「誰?……」

「いや‥なんなんだ?君は」

僕がそう言い直したのには理由がある

その異物がおおよそ人間だとは思えなかったからだ、生物かどうかすら怪しい、そう思わせるほどのカタチをしていた

 

────「僕は君が望んだものだよ」

そう異物は答えた

 

「僕が望んだもの?」

僕は直感した、あの時僕の脳内に響いた声の主はコイツだ。しかし何が目的なんだ?力とは?そもそも僕は今安全なのだろうか?疑問は尽きない

 

────「僕の目的は君の助けになる事、力とは僕のことで君は今世界中の誰よりも安全だ」

異物はそう続けた

驚いた、思考が読まれるみたいだ

 

「えーと、その、名前は何て言うの?」

とりあえず、現状、今僕に起きている事態の整理をしなければいけない

 

────「僕の名前…?」

 

────「そうだな…『脳』と呼んで欲しい、これは僕の事であり、君の事でもあるんだが」

暫しの沈黙の後、『脳』とやらはそう告げた

 

「とりあえず、その奇妙な見た目は何とかできないかい?君の…その…『脳』くん?の事を見ていると変な気持ちになるんだ、まるで見ているはずなのに、見ていないような…」

 

────「そうだね、まだ君の脳は僕の情報量を処理しきれていないんだ コレの解決策は簡単さ、君の脳に定型的な視覚的情報を与えるだけだからね、そうだな…君が最も親しみやすい情報を入れよう」

 

そう『脳』とやらが意味のわからない事を話し終えるとたちまち『脳』の姿がレアコイルに変わった

 

「き、君が突然レアコイルになったんだけど‼︎」

 

────「君がそう望んだからね」

望んだ覚えはない

 

────「さて、本題に入ろう 君は何をやっても平凡以下な情け無い自分の人生を悟り、無意識的に僕を呼んだ、マァ生み出したのは君なんだが、そしてこのくだらない現状を打破したいと考えた、そういう事だね?」

 

「よ、よくわからないけど今の現状がどうにかなるならそれに越した事は無いよ!」

 

────「簡単な話だよ、捨ててしまえばいい」

 

「捨てる?」

 

────「捨てる…は語弊があるな、覚める…かな 君が知覚している全ての情報の変換方法をイジくるワケだ、脳の解放さ、僕と接触している事自体君の脳はもう一部解放されているといって良いんだが、まだこの宇宙の物理法則から抜け出し切れていない、謂わば僕は君の脳を解放する為の鍵ってワケだね」

 

「よ、よくわからないけど怖いよ」

何がなんだかわからない、悪い夢なら覚めてくれ、『脳』の言っている事は全く理解できないがコイツは"イカれている"それだけは分かる

 

────「うーん、君が望んだクセに酷い言い草だね、そもそも僕は君なんだけども、深層心理って知ってるかい?…まぁそれは良いか、うーんと…君は脳がどんな形をしているか知っているかい?」

 

「直接見た事は無いけれど、教科書やテレビで模型は見た事があるよ、右脳と左脳に分かれていて、丸みを帯びた形でしょう?」

頭の中では一刻も早くここから逃げ出したいハズなのだが、足が動かない また、『脳』と会話をしていると心なしか現実がまどろむような…不思議な感覚に襲われる

 

────「ふーん、脳の形を知覚しているのは君の脳なのに脳を知覚できていると思っているんだね」

『脳』がニヤリと笑った気がした、目の前にいるのはレアコイルでそんな筈は無いのだけれど

 

「どういうこと?」

僕は尋ねた、一階から母の声がした気がする

振り向くと一階に続くドアは消えていた

 

────「君ね、"知覚する者が"知覚する自身"を知覚することなんて"出来る訳が無いんだよ" いいかい、"出来る訳が無いんだ" もし本当に知覚することが出来たなら、情報の無限ループが起こり構造は破壊されてしまうんだ、わかるかい?世界が終わってしまうんだよ

 

「……。」

僕は唾を飲み込んだ、いつのまにか窓も本棚も勉強机も消えている、ここはどこだ?僕の部屋の壁ってこんな色をしていたか?そもそもこれは何色なんだ?

 

────「君はもう一歩を踏み出しているんだ、徐々にセーブされていた知覚のバルブも緩まってきている、真の情報、真の情報だ、わかるかい?後は飛び込むだけなんだ、スイッチが必要だ、決定的なスイッチ、ダメ押しのゴール」

『脳』はそう言うとレアコイルの真ん中の目が突如セクシーな女性の口に変わり、ボリュームのある唇を大きくつぼめると西瓜程の大きさの「モザイク」を吐き出した

 

「ナんダい?コリャ」

 

────「今吐き出したのは脳の情報、視覚的情報だけを排除してあるから君の脳がモザイク状に処理をしている、一欠片とって呑み込むんだ、それが解放のスイッチになる、人が人の脳を食うと狂うって話知ってるかい?アハハ、なぁに心配するなよ、君はもう狂ってるんだから、いや君の世界では狂ってるのは周りか?くだらないな、狂気なんて測る者の定規によって定義されるんだ、いやしかしルールに従った世界で君はもう狂っていると定義しても差し支えはないか、まぁ何にせよ君は解放だ、解放だよ、大いなる解放」

 

「アハハハハハハハハハ‼︎」

僕はもうオカシクってたまらなかった、レアコイルのリップから吐き出されたモザイクを一心不乱に口へと運んだ、音楽も爽快だ、聞いたことのない味がする音楽がいつの間にやら視界を遮る

 

────「全ては脳なんだよ、脳で完結する事象なんだ、君が外世界へ触れて知覚する[楽しい][気持ち良い][美味しい][幸福][痛い][不味い][暑い][冷たい][悔しい][腹が立つ][不幸]全てが脳の知覚によるものだ、全てが脳で完結している、ならば脳による知覚を脳によって支配すれば良い、外世界は全て不要だ、瞬間的に幻想になる、空虚だ、カスだ‼︎脳だけで人は幸福になれる、脳が絶対的であり、神なんだ‼︎ 脳が"死"を知覚しなければ人は"死"さえも超越する、脳が神なんだよ」

 

「アーーーーー。」

圧倒的な多幸感に包まれドビ太は空間に解けた

 

 

 

 

…………。

 

 

 

 

暗闇の中、ドビ太はゆっくりと目を開ける、正確には目ではなく備え付けられた超高解像度のカメラが起動したのだがそんなことは最早関係ない

暗闇の中大量のサーバーがピコピコ光っている

時折サーバーのランプに培養液漬けの脳が浮いた試験管が照らされるがおびただしい数だ

全ての試験管に繋がれたコードは中心の"大きなモノ"に集約しているようだが暗くてよく見えない

 


カツカツ…カツカツ…

 


何やら男が独り言を呟きながら歩いてくる

「ようやく完成だ…オレは神を造ったんだ…天地創造…オレだけが現実だ…オレだけ…ここは現実…現実なんだ…オレが現実を造るんだ…」

 


言っている意味がよくわからない

しかし聞き慣れた声だ

誰の声だ?よく顔が見えない

なんとか目を凝らしているとサーバーのランプが一瞬彼の顔を照らした

 


なんてことだ…一体これはどういうことだ…?

………………僕だ。

この男は僕じゃないか…どおりで聞き慣れた声だと思ったんだ

何故僕が?これは現実か…?それとも夢…?

僕は僕だけのハズだ…

 


しかし…まぁ……いいか。

考えるのも面倒くさい…

今は、ただ、気持ちが良い…

アァ……気持ちが…良い………………。

 

 

 

ーーーーーーブツンッーーーーーー